アメリカ英語とイギリス英語の違いは?

一口に「英語」と言っても、「アメリカ英語」と「イギリス英語」には様々な点で違いがあります。
元々は同じ英語だったはずがなぜ大きな違いが生まれたのか、アメリカ英語またはイギリス英語のどちらかに統一すべきなのはどんな時なのかご紹介します。
また、英語論文ではアメリカ英語が主流なこと、英語論文作成時における注意点、英文校正会社を利用した方がいい理由についても、詳しくご説明します。
コラムの目次
アメリカ英語とイギリス英語の違い
「アメリカ英語」と「イギリス英語」は様々な点で異なります。
この違いが生まれた歴史的背景をご紹介し、その後アメリカ英語とイギリス英語の違いの例をいくつか見ていきます。
アメリカ英語とイギリス英語が異なる歴史的背景
英語は元々イギリスで使われていた言語です。
17世紀以降北アメリカの一部をイギリスが植民地支配するようになり、北アメリカでも英語が使われるようになりました。
その後1783年に13の植民地が「アメリカ合衆国」としてイギリスから独立し、1828年にアメリカ初の辞書(”An American Dictionary of English Language”)が出版されました。
同辞書を作成したノア・ウェブスター氏は、それまでの辞書には存在しなかったアメリカ独自の言葉を追加したり、イギリス英語のスペリングを発音に近いものに簡略化したりしました。
このことが大きな契機となって、イギリス英語とアメリカ英語の間に明確な違いが生まれました。
現在、アメリカ英語はアメリカだけでなく、カナダ、フィリピン、プエルトリコなどでも話されています。
また、日本や南アメリカでの英語教育ではアメリカ英語が教えられています。
一方、イギリス英語はイギリスの他、かつてのイギリスの植民地であるアイルランド、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、西アフリカ、インド、シンガポール、マレーシア、香港などで話されています。
国別で見るとイギリス英語を使用する国の方が多いものの、アメリカ英語を使用する人口は、イギリス英語の使用人口よりも圧倒的に多くなっています。
アメリカ英語とイギリス英語の違いはこれだけある
アメリカ英語とイギリス英語は、「単語」、「スペリング」、「発音」、「表現」など様々な面で異なります。
アメリカのドラマなどでは、イギリス人の話すイギリス英語の単語や発音が話題になっているシーンが時々見られ、英語ネイティブであるイギリス人とアメリカ人の間でも両者の英語の違いがはっきりと認識されているようです。
① アメリカ英語とイギリス英語の単語の違い
単語の違いは最も分かりやすいアメリカ英語とイギリス英語の違いと言えるでしょう。
よく知られている例が、世界的にベストセラーとなった「ハリーポッター」シリーズ第1巻のタイトル「ハリーポッターと賢者の石」です。
もともとイギリス版では、
“Harry Potter and the Philosopher’s Stone”
というタイトルでしたが、アメリカ版では
“Harry Potter and the Sorcerer’s Stone”
に変更されました。
“philosopher”はアメリカでは「哲学者」のイメージが強く物語の内容と合わないため、”sorcerer”(魔法使い)に変えられたそうです。
さて、下の表にあるように日常生活で使う単語の中にも、アメリカ英語とイギリス英語で異なる単語がたくさんあります。
【アメリカ英語とイギリス英語で異なる単語の例】
意味 | アメリカ英語 | イギリス英語 |
アパート | apartment | flat |
地下鉄 | subway | underground |
トラック | truck | lorry |
歩道 | sidewalk | pavement |
リュックサック | rucksack | backpack |
クッキー | cookies | biscuits |
フライドポテト | french fries | chips |
なす | eggplant | aubergine |
消しゴム | eraser | rubber |
蛇口 | faucet | tap |
ガソリン | gas | petrol |
映画 | movie | film |
ズボン | pants | trousers |
不動産仲介会社 | realtor | estate agent |
車のトランク | trunk | boot |
ちなみに、日本語の「カタカナ英語」にはそもそも英語として通じない「和製英語」がある上、「アメリカ英語」由来のものと「イギリス英語」由来のものの両方が含まれているので、英訳する時は注意が必要です。
たとえば、「エレベーター(elevator)」はアメリカ英語です(イギリス英語では”lift”)が、「セロハンテープ」はイギリス英語です(アメリカ英語では”scotch tape”)。
ちなみに「秋」はアメリカでは”fall”、イギリスでは”autumn”と言いますが、”fall”の方が元々使われていた古い英語だそうです。このように、アメリカ英語の方が古い英語が残っている例もあります。
② アメリカ英語とイギリス英語のスペリングの違い
アメリカ英語とイギリス英語のスペリングの違いには、下の表に挙げたようにいくつかのパターンがあります。
これらのパターンを見ると、アメリカ英語のスペリングはイギリス英語に比べて簡略化されていたり、発音に近いスペリングになっていたりすることが分かります。
【アメリカ英語とイギリス英語でスペリングが違う単語】
イギリス英語 → アメリカ英語 | 意味 | イギリス英語 | アメリカ英語 |
<ou>が<o>に変わる | 色 | colour | color |
<re>が<er>に変わ | リットル | litre | liter |
<c>が<s>に変わる | 免許 | licence | license |
<s>が<z>に変わる | 企画する | organise | organize |
<ue>を省略 | 類似物 | analogue | analog |
<ae>が<e>に変わる | 小児科の | paediatric | pediatric |
<ll>が<l>に変わる | ラベル付きの | labelled | labeled |
<e>を省略 | 高齢化する | ageing | aging |
③ アメリカ英語とイギリス英語の発音の違い
両者を聞き比べてみると分かりますが、発音もかなり違います。たとえば、”can’t”はアメリカ英語では「キャーン(ト)」に近い発音になりますが、イギリス英語では「カーン(ト)」に近い発音になります。
“often”はアメリカ英語で「オーフン」ですがイギリス英語で「オフトゥン」、”tomato”はアメリカ英語で「トメイトゥ」ですがイギリス英語で「トマートゥ」のようになります。
※なお、英語の発音をカタカナで表しているため正確な発音を表しているわけではありません。
④ アメリカ英語とイギリス英語の表現の違い
アメリカ英語とイギリス英語では、以下の例のように表現方法にも違いがあります。
【”have”と”have got”】
アメリカ英語では、
“I have a book.”
(私は本を持っています)
と”have”を使うことが一般的ですが、イギリス英語では
“I’ve got a book.”
と”have got”を使って言うことが多いです。
【”first floor”と”ground floor”】
建物の「1階」はアメリカ英語では”first floor”ですが、イギリス英語では”ground floor”と言います。
ちなみに、イギリス英語の「2階」は”first floor”です。日本人の感覚からすると、少しややこしいですね。
【”take out”と”take away”】
飲食店の「お持ち帰り」のことを、アメリカ英語では”take out”と言いますが、イギリス英語では”take away”と言います。
日本語の「テイクアウト」はアメリカ英語から来ているのですね。
アメリカ英語かイギリス英語のどちらかに統一すべき場面
映画や海外ドラマなどの影響もあり、一般的にアメリカ人はイギリス英語を、イギリス人はアメリカ英語を理解できます。
ただ英語ネイティブの中には、アメリカ英語かイギリス英語かということにこだわる方もいます。
また、ノンネイティブが英語を使う場合は特に、聞き手や読み手を混乱させないようアメリカ英語とイギリス英語を混ぜて使わない方がいいでしょう。
特にフォーマルな場面では、アメリカ英語とイギリス英語のどちらかに統一するのが一般的です。
アメリカ英語とイギリス英語のどちらに統一すべきか、それは所属するコミュニティによっても異なりますし、英文の読み手や英語の聞き手が誰なのかによっても変わります。
たとえば、アメリカへ旅行に行ったら当然アメリカ英語の方が意思疎通しやすいです。
一方、ミーティングの参加者の大多数がイギリス人またはイギリス英語を話す国の人であれば、イギリス英語を使った方がスムーズにコミュニケーションできます。
英語を使う場面では、聞き手や読み手がアメリカ英語とイギリス英語のどちらを使う人が多いのか、前もって調べておいた方が良いでしょう。
英語論文ではアメリカ英語が主流
英語論文はフォーマルな英語で書くので、アメリカ英語とイギリス英語のどちらかに統一して書くのが大原則です。
ではどちらに統一するべきかというと、実は英語論文の世界では圧倒的にアメリカ英語が主流です。
英語論文でアメリカ英語が主流な理由
上述した様に、アメリカ英語の方がイギリス英語よりも使用人口が多いことが理由の一つとして挙げられます。
英国の「ネイチャー」誌を始めヨーロッパを拠点とする一部のジャーナルでは「イギリス英語」が好まれる傾向があるものの(「イギリス英語で」と指定がある場合もあります)、それ以外のジャーナルに掲載されている多くの英語論文はアメリカ英語が主流です。
このため、アメリカ英語かイギリス英語のどちらでもいいが「どちらかに統一すること」という指定がある国際的なジャーナルに英語論文を投稿する場合は、アメリカ英語で書いた方が無難だと言えるでしょう。
また、日本の英語教育ではアメリカ英語を習ってきているので、日本の多くの方にとってアメリカ英語の方が書きやすいかと思います。
英語論文を作成する際の注意点
英語論文を作成する際は、まず投稿先のジャーナル等がアメリカ英語とイギリス英語のどちらかを指定しているか確認します。
特に指定がない場合は、既に出版された英語論文を見てどちらが主流なのか把握しましょう。
英語論文をアメリカ英語とイギリス英語のどちらかで書くか決まったら、「英文スタイル」、「単語」、「スペリング」などの違いに特に注意して書きます。
① 英文スタイル
アメリカ英語とイギリス英語では「句読点」(カンマやピリオドなど)の使い方が異なります。
【リストの中のカンマ】
たとえば、項目をリストアップする場合、イギリス英語では”A, B, C and D”ですが、アメリカ英語では”A, B, C, and D”と接続詞”and”の前にもカンマを打ちます。
【引用符】
引用符はアメリカ英語では「ダブルクオテーションマーク」(” ”)を使い、イギリス英語では「シングルクオテーションマーク」(’ ’)を使います。
また、カンマとピリオドはアメリカ英語では引用符の内側に置かれますが、イギリス英語では通常引用符の外に置きます。
(アメリカ英語)
“I am happy,” he said.
(イギリス英語)
‘I am happy’, he said.
② 言葉の選択
アメリカ英語とイギリス英語で語句や表現が異なる場合、注意が必要です。
たいていの辞書には、アメリカ英語かイギリス英語特有の表現・スペリングの場合はその旨表記してあります。
使用する辞書は、アメリカ英語で書く場合はアメリカ英語をメインとする辞書を使うのがベストです。
たとえば、アメリカ英語の代表的な英英辞典の1つに、” Merriam-Webster”(メリアム・ウェブスター)があります。
③ スペリング
既にご説明したように、アメリカ英語とイギリス英語のスペリングには違いがあります。
その違いにはパターンがあるので、それらを頭に入れておくとスムーズに書けるでしょう。
また、ワードなどのソフトウェアで言語設定を「アメリカ英語」にしておけば、うっかりイギリス英語で書いてしまった場合も自動で修正してくれます。
ただし、「自動修正」の設定にしてしまうと予期しなかった思わぬ変更がなされてしまうことがあるため、修正候補を表示するだけの設定にしておき、自分で確認しながら手動で修正することが大事です。
④ 固有名詞はそのまま
たとえば、アメリカ英語で英語論文を書いている場合でも、イギリス英語の「固有名詞」もアメリカ英語に直さずにそのまま記載します。
たとえば、日本の省庁および各局の英語名称には、イギリス英語のスペリングが見られ、国土交通省の各局の名前も以下のようにイギリス英語の単語やスペリングが使われています。
Railway Bureau (「鉄道局」)
Ports and Harbours Bureau (「港湾局」)
これらもアメリカ英語に直さずそのまま記載します。
ちなみに、「鉄道」はアメリカ英語で”railroad”と言い、「湾」のスペリングはアメリカ英語では”harbor”です。
「固有名詞は変更しない」と覚えておきましょう。
英語論文の校正は英文校正会社を利用するのがおすすめ
ここまで英語論文におけるアメリカ英語とイギリス英語の違いの例を見てきました。
たとえばアメリカ英語で英語論文を書く場合、スペリングは自動修正機能があれば比較的自分でチェックしやすい項目です。
ただ、自分が書いた英単語やフレーズがアメリカ英語なのかイギリス英語なのかを辞書などで確認していくのは相当時間がかかりますし、英文スタイルについても、アメリカ英語に統一されているかどうかを自分ですべてをチェックするのはなかなか難しいものです。
そこで、英語論文の校正は英文校正会社を利用するのがおすすめです。
研究分野に詳しい校正者がいる英文校正会社を選び、依頼時にはアメリカ英語で修正してほしい旨明記すれば、イギリス英語で書かれた部分もアメリカ英語に修正してもらえます。
まとめ
日本で普段生活しているとアメリカ英語とイギリス英語の違いをあまり意識する場面は少ないかもしれませんが、実際には様々な点で違いがあります。
英語論文を作成する際には、フォーマルな場面ではアメリカ英語かイギリス英語に統一すべきこと、また英語論文ではアメリカ英語が主流であることに注意しましょう。
また、論文作成後は、プロの英文校正会社にアメリカ英語で校正してもらうことをお勧めします。